童話とは

童話(どうわ)は、現代では、子ども向けの物語とされています。

楽しくわくわくした時間を過ごす娯楽であり、読み聞かせによって、児童へ良い教育効果があります。

教育学の視点から、童話について解説していきます。

目次

童話の成立の歴史

童話を理解するために、まずはどのような作品が、現代では童話として扱われるようになったのか、吟味してみましょう。

というのも、現代では童話として扱われていても、その出自を振り返ってみれば、とても子供向けとは思えない作品が、たくさんあるからです。

イスラム(アラビアンナイト)

  

イスラム文化からは、アラビアンナイト(千夜一夜)が、童話として有名です。

アラビアンナイトは、砂漠地帯を舞台とし、イスラム教を背景に持ちます。

主人公は子供ではなく、成人が多いです。

経済観としては、登場人物たちは積極的に事業を経営し、富の蓄積は善として肯定され、貧者への施しにも積極的です。

残酷な描写も存在しており、主人公は苦境と絶望に陥り、自らの力だけで、意思決定しなければいけない場面もあります。

日本(御伽草子)

  

日本文化からは、御伽草子(おとぎそうし)があります。現代では、おとぎ話という言葉も用いられています。成立年代は、早くても鎌倉から室町時代だと考えられています。

御伽草子には、自然崇拝、仏教、道教、などの影響がみられますが、基本的な物語の形式は、地理の理解です。物語を通して、自分たちの身近にある山・海・島、などの由来が説明されます。

主人公は、子どもに限定されず、年齢に広がりがあります。

経済観としては、善行の報いとして、金銀財宝が与えられることはありますが、使途はあまり細かく描かれません。

桃太郎が持ち帰った金銀財宝は、使途不明のまま、めでたしめでたしとなります。

西洋

西洋文化からは、イソップ童話・アンデルセン童話・グリム童話・イギリス童話、が有名です。成立年代順に読書していくと、面白いことがわかります。

イソップ

  

イソップ童話は、成立年代がもっとも古く、古代ギリシャにまで遡ります。

イソップ(英:aesop)という人がまとめたとされるので、作者の名前を冠(かん)して、イソップ童話と呼ばれています。

イソップ童話の特徴は、寓話(ぐうわ)といって、人間世界の法則を、たとえ話で伝えます。現代の経営学・心理学などで、抽象的な法則として伝えられている知識を、イソップは寓話という別の教授法によって、伝えます。

それは結果的に、子どもにもわかりやすく、イソップ童話は長く愛されるものとなっています。

19世紀(資本主義・国民国家・義務教育)

グリム童話・アンデルセン童話・イギリス童話は、いずれも19世紀を中心に成立しました。そして19世紀は、資本主義・国民国家(英:Nation State)・義務教育が、歴史に登場してきた時代です。

グリム

  

グリム童話は、19世紀にドイツで生まれました。編者のグリム兄弟(兄:1785--1863)は、言語学者で、国民国家が成立していく気運のもとで、ドイツ語の民話を収集しました。

民話は、庶民の物語です。庶民は、ヨーロッパの階級社会において、貴族と対比される存在です。この点は、童話の理解のために、重要です。言語の習得において、貴族は自国語と共通語(英:Lingua franca )の2言語以上を用い、一方で、庶民は自国語の1言語のみでした。現代風に言えば、貴族は国境(所領)を超越するグローバルな存在で、庶民は地域に根差したローカルな存在でした。

したがって、地域全体へ義務教育を普及するためには、自国語を整備しなければならなくなり、それが国民国家の仕事になったのです。グリム兄弟によるドイツ語民話収集も、(物語の魅力よりもむしろ)、国家的な言語政策の一環として、理解したいです。

経済観としては、貧しい農村の子どもが描かれます。保護者は、子どもを財産・労働力として扱っています。

ヘンゼルとグレーテルの家庭は、不況による経費削減として、食事を減らし、森の奥へ子どもを捨てます。

シンデレラ(灰かぶり)の家庭は、子どもに家事労働を押しつけ、暴力とストレスの捌け口にし、ガラスの靴を履くために血を流させます。

不幸な子どもを描いているのに、グリム童話には不思議な魅力があり、愛され続けています。

アンデルセン

アンデルセン童話は、19世紀にデンマークで生まれました。グリム童話とほぼ同時期の作品ですが、特筆すべきは、アンデルセン(1805--1875)が、マッチ売りの少女を、都市の労働者として描いている点です。

グリム童話の家庭は、資本主義以前の荘園領主制(土地を管理する貴族と土地に縛りつけられた農民)、つまり憲法22条による居住・移転・職業選択の自由が、存在しない世界に、設定されていました。

アンデルセン童話のマッチ売りの少女は、職業選択の自由のある、資本主義の都市の、労働者です。

資本主義が社会に浸透するにつれて、農村から都市へ労働者が流入し、資本家による児童労働を始めとした、労働問題が発生します。

マッチ売りの少女は、都市の街路で、ビジネスの訓練も受けず、営業・販売のスキルもなく、マーケティングもせずに、商材として全く魅力のないマッチが売れずに、絶命します。

同じ童話でも、アンデルセン童話は、イソップ童話とは異なり、子どもの置かれた社会制度が、作品に色濃く投影されています。

イギリス

  

19世紀に成立したイギリス童話も、子どもの置かれている社会制度が、背景にあります。不思議の国のアリスは、児童教育を意識して執筆されています。作者のルイス・キャロル(1832-1898)は数学者で、単純に面白いだけの民話ではなく、教育効果を考えて、人工的に物語を構成しています。

義務教育制度が普及するにつれて、「そもそも子ども向けに執筆する」ことが、意識されるようになりました。この段階で、現代の私たちが考えるような「童話」、つまり、大人とは明確に区別された読者層としての「子ども向け」、が生まれたと考えられます。童話は、児童文学とも呼ばれるようになりました。

  

大人と子どもは異なる存在だと、ピーターパンも主張しています。ピーターパンは、永遠に大人にならない「ネバーランド(英:Neverland)」の住人であり、大人になることを拒否します。

ピーターパンの主張の背景には、大人社会からは隔絶された人工的な制度、つまり国家的な義務教育の制度が、社会に浸透していったことがうかがえます。大人と子どもは異なる世界に生き、そこでは異なる価値観と論理が作動し、やがて時間とともに大人の社会に吸収されていく。

このような精神は、現代のニートの問題にも、継承されていきます。ニートの「働きたくない」という主張と、ピーターパンの「ずっと子どもでいたい」という主張は、深い部分で共鳴しているからです。

童話の魅力

最後に、童話の魅力を、まとめていきましょう。

童話は、人生の見学です。例えば、アラビアンナイトでは、さまざまな場面で、人間が取るべき行動が、描かれています。

童話は、世界の理解です。例えば、お伽草子では、私たちの生活空間の疑問を、物語によって教授します。

童話は、優れた教授法です。例えば、イソップ童話は、論理性・抽象性の代わりに、優れた比喩によって、教授します。

童話は、優れた教材です。例えば、グリム童話は、庶民向けの民話であったために、かえって、学習段階に依存しないように、誰にでもわかるように、内容が洗練されたのです。

童話は、情緒発達を促します。例えば、アンデルセン童話は、現代日本では消滅した、さまざまな境遇を、読書によって追体験できます。

童話は、精神の結晶です。例えば、イギリス童話は、大人社会とは異なる論理をもつ世界を、描くことに成功しています。