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感性で知る
感性・直観・情動・理性、さまざまな方法で、人間は知ることができる。
21世紀の社会では、「何を知るか」だけではなく、「どうやって知るか」も、重視される。
以下では、人間が世界を認識する技術として、感性の理解を深めていきましょう。
感性とは
感性(英:Sense)は、人間の神経の能力によって、世界を知ろうとする。
人間の神経は、感覚神経と運動神経に、分かれる。
感性と感覚神経
感覚神経は、5感(触覚・味覚・嗅覚・聴覚・視覚)とも呼ばれる。
5感のうち、視覚・聴覚は、遠感覚(えんかんかく)とも呼ばれる。対して、触覚・味覚・嗅覚は、近感覚(きんかんかく)とも呼ばれる。
遠感覚は、(音・光を通じて)距離が離れていても、認識できる。対して、近感覚は、距離が離れると、認識できなくなる。
遠感覚は、電子メディアによって再生されやすい。現代の私たちは、外部世界の認識を、遠感覚に頼りがちだ。
演習問題
遠感覚と近感覚は、どちらが優れているのだろうか。それぞれの感覚の性質を踏まえて、あなたの意見を200文字以内で述べなさい。
例えば、視覚(遠感覚)は、遠くまで見渡すことができる反面、光の反射・屈折によって、誤った像を認識してしまう弱点がある。湖に太陽が映っているように見えても、湖の中に太陽は存在しない。
対して、触覚(近感覚)は、近くのものしか認識できないが、間違える可能性は低い。湖に太陽が映っているように見えても、湖に指先で触れれば、そこには太陽は存在せず、水だけが存在すると、認識できる。
内側の感覚神経
5感に加えて、感覚神経は、人体の内側にもある。(目立たないので忘れがちなのだが!)
例えば、「自分のお腹が痛い」と認識するためには、感覚神経が、お腹からの情報を、認識できていなければならない。
演習問題
人体の内側の感覚神経からは、どのようにして情報が送られてくるのだろうか。空腹・満腹・疲労・痺れ、などから1つを選び、100文字以内で述べなさい。
感性と運動神経
運動神経は、人間の骨格筋を動かすだけではなく、人間が存在する空間も、認識している。
例えば、「乗り物酔い」を認識するためには、運動神経が、自分の身体と空間の揺れを、認識できていなければならない。
演習問題
私たちが歩こうとすると、両足の動きに合わせて、両腕も自然と動く。両腕を動かないように固定して、歩いた場合、あなたの歩き方はどのように変わるだろうか。100文字以内で述べなさい。
感性と発達
感性は、生まれたばかりの乳児にも、動物にも、すでに備わっている。
例えば、暑さ寒さ(触覚)は、生まれてからすぐに、認識できる。
対して、言語は、生まれてからすぐには、話せない。
人間の発達において、感性は他の3つの認識能力(直観、情動、理性)よりも早期に現れ、ゆるやかに発達していくと考えられている。
私たちの認識能力が、時間とともに発達していく性質を、ジャン・ピアジェ(瑞:Jean Piaget 1896--1980))は、発生的認識論(英:genetic epistemology)と呼んだ。
発生的認識論は、現代の教育学の基盤となっている。
演習問題
ネパールの王子で、仏教の開祖となったシッダルダは、生まれて間もなく「天上天下唯我独尊」と、8文字の熟語を述べられたと伝えられている。この逸話は、宗教的な奇跡と科学的な矛盾を、同時に持っている。
シッダルダは、本当に「天上天下唯我独尊」と言語を話せたのだろうか? それとも、後世の人間たちが編んだ物語なのだろうか。あなたの意見を200文字で述べなさい。
感性と安定性
感性は、生命を守るために大事な能力なので、身体の変化によって、影響を受けにくく、安定している。
例えば、気温が上がると、嗅覚がなくなったり、気温が下がると、目が見えにくくなったりはしない。
対して、人間の情動は、身体の変化によって、影響を受けやすい。(夏が来るとウキウキする・冬の朝はやる気が起きない)
演習問題
私たちが快適に学習するためには、どのような環境がふさわしいのだろうか。光・気温・湿度などの条件を、200文字以内でまとめなさい。
感性と非線形性
感性は、量に対して、定まった反応をするわけではない。
例えば、熱という量を考えてみよう。熱という量は、理性の能力によって、科学的に定義できる。(熱量はJ(ジュール)という単位で測定される)
しかし、私たちの肌(触覚)は、「熱い」と感じるときもあるし「温かい」と感じるときもあるし「ぬるい」と感じるときもある。その境界は、どこにあるのだろうか。
摂氏20度なら「ぬるい」と感じ、摂氏21度なら「温かい」と感じるのだろうか。そこまで厳密に、感性は認識しているのだろうか。また、いつでも同じように感じるのだろうか?
感性が、独自の法則を持つことは、芸術や生理学で探求されている。
演習問題
優れた料理人は、料理が提供される温度にも、注意を払っている。料理は、味覚についての技術と思われがちだが、温度(触覚)についての技術でもあるようだ。
「冷えたピザ」や「熱いアイスクリーム」を、私たちはあまり好まない。
温度(触覚)が変化することで、味覚も変化した事例を、あなたの経験にもとづいて、100文字以内で述べなさい。
感性と経験論
感性は、直接の経験によって、知る技術だ。
経験によって得た知識を重視する立場を、経験主義(英:empiricism)と呼ぶ。感性は、経験主義の土台となっている。
演習問題
ある人間は、ヒマラヤ山脈に行った経験はないが、ヒマラヤ山脈を知っていると、主張している。この人間は、地図を通して、ヒマラヤ山脈の名前と概要は知ってはいるが、地図は、直接の経験による知識ではない。
あなたが本当にヒマラヤ山脈について知りたくなった時、この人間の知識はどれだけ有効なのだろうか?
経験していない知識の限界について、あなたの意見を400文字以内で述べなさい。
感性と言語
感性は、「世界をありのままに感じている」と考えられがちだ。特に、子どもは「純真無垢で、世界を純粋に感じるができる」とする意見は、「素朴な感性論」と呼ばれる。
しかし、「素朴な感性論」には、批判意見がある。
サピア・ウォーフ仮説(英:sapir-whorf hypothesis)では、感性はありのままの世界を認識するのではなく、言語によって影響を受けると考える。
例えば、コンビニには、どのような名前の製品が、陳列されているのだろうか。科学的な成分が同じ製品でも、なぜ異なる名前が与えられているのだろうか。
もし、名前を変えることで、私たちの感性に影響がないならば、どうして企業は商品名の決定に何億円もの資金を投じているのだろうか。
同じセンベイに、「愛情を込めて丁寧に仕上げたセンベイ」と名付けた場合と、「工場で機械によって無慈悲に押し潰されたセンベイ」と名付けた場合で、どのように売り上げが変わるのだろうか?
演習問題
もし、感性が言語の影響を受けるのであれば、私たちはどのように言葉遣いに気をつけるべきなのだろうか。
法律の立場では、言葉で言うことと、実際に行動することは、区別されている。対して、 宗教の立場では、マザー・テレサは、「言葉に注意しなさい。それはやがて行動となるから」と、言葉と行動の関係を指摘している。
あなたの身の回りのものを、異なった名前で呼んでみて、どのような変化が生まれるのか、自ら実験し、400文字以内で述べなさい。
感性と科学
「素朴な感性論」には、もう1つ、科学の立場から批判意見がある。
科学的実在論(英: Scientific realism)では、感性の能力の限界を指摘する。感性は、「世界をありのままに感じている」のではなく、「人間の感性の限界に合わせて、世界を切り取っているに過ぎない」と考える。
例えば、嗅覚においては、人間はイヌを超えることができない。イヌの鼻が認識している匂いを、人間の鼻は認識できない場合がある。人間の鼻が認識できないけれども、匂いは存在している。
同じように、視覚において、人間は、電磁波のわずかな部分しか認識できない(電磁波のうち、
人間が認識できる部分を、特に「光」と呼んで区別している)。赤外線や紫外線は、人間の視覚によって認識できないが、現代の科学技術として活用されている。
演習問題
図 ツキヨタケ シイタケと似ているが食べてはいけない。食べると食中毒に襲われる。
「毒キノコ」は、感性による認識が、失敗しやすい事例だ。食品を選ぶなら、視覚だけに依存するのではなく、科学検査によって成分を確認したい。
あなたの身の回りで、感性による認識が失敗しやすい事例を挙げ、なぜ失敗しやすいのか、400文字以内で述べなさい。
感性と限界
感性は、空間を認識できるが、時間を認識することができない。
例えば、犬は、自分で埋めておいた大好物の骨を、探せないことがある。犬は、骨の位置を、感性(視覚・嗅覚)に依存して探すので、時間の変化によって、風景が変わった場合や、匂いが消された場合には、骨を探せなくなる。
また、子どもが想像力の豊かなのは(騙されやすいのは)、感性に依存していて、他の認識方法が未発達だからである。
感性は、優れた認識技術だが、単独では間違えやすい。したがって、他の認識技術(直観・情動・理性)と組み合わせて活用すべきだ。
演習問題
あなたは、企業について知りたくなり、ウェブサイトを開いた。ウェブサイトには、笑顔の従業員の写真が掲載されており、それ以外には情報がなかった。
あなたは何を知ることができたのだろうか。また、もっと企業を知りたくなった場合は、どのような認識技術を用いればよいのだろうか。あなたの意見を400文字以内で述べなさい。
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